実写版ヲタクに恋は難しいが傑作でミュージカルの面白さを理解した

クソ映画観賞しようということで、有名なクソ映画である実写版ヲタクに恋をは難しいを見てみた。そうしたら、駄作どころか映画全体でも面白い方で、ドラえもん映画に例えると、ワンニャン時空伝と同じぐらいの面白さはあった(40作中5位)

 

だが、クソ映画で有名な作品をただ面白いとだけ主張しても、ただ根拠なく逆張りしているようにしか見えないのではないかという危惧もあるので、ちゃんと説明もつけた感想文を書くことにした。

 

前提は以下

・今回の参加メンバーは原作は一切知らない

・前知識も一切持たずに見た

・佐藤二郎が出てくるパートはすべてつまらない。もはやキャストからしてわざとやっている気がするが、ここについては擁護のしようがない。もったいない部分。

・いままでミュージカルを見たことがなかった(または見たけど記憶に残ってない、面白さを理解できなかった)メンバーのみで見た

・感想にはややネタバレは含むが、話の展開などの具体的な話には触れないつもり。ただ細かいとこには結構触れる

 

 

 

 

この映画はミュージカル映画である。

頻繁にミュージカルパートが挿入され、「ミュージカルパート = つまらない」という前提で見ると、まぎれもなくつまらない映画となる。

 

だが、それではあまりにも勿体なく、それどころかこの映画は「ミュージカルがなぜ面白いか」までを分かりやすく伝えてくれて、「ミュージカル入門」にまでなる名作だった。

 

この映画を見て主に感じたミュージカルの魅力は、ミュージカルパートから与えられる情報量は、見る側にとって必要十分な量に調整しやすいことであり、漫画の実写化とはきわめて相性が良いことである。そしてすでにテニプリのミュージカルなどはあるが、ああいうスポーツ作品のミュージカルより、恋愛作品の方がミュージカルにはより向いているであろうことである。

 

漫画ではしばしば、キャラのモノローグや解説のコマ(四角いやつ)が入る。漫画を映像化する際の問題点の一つとして、モノローグや解説をそのまま再現すると一つの場面で停留してしまい、全体として冗長で退屈になる。だが、解説をしないなら漫画に比べてときとして重要な情報が落ちる。

 

そこで、リアルタイムにキャラを動かすことで情報量を増やし、モノローグや解説をカットしてもなお情報量を保つのが、いいアニメ化といえるものだと考える。

 

それをもとに考えると、恋愛要素が入る方がよりアニメ化に難易度が高いことがわかるだろう。キャラの心情の機微を盛り込む必要があるからだ。最近は容易にヒロインが主人公に恋愛感情を序盤に持つ作品が多いが、それなら「好き」「かっこいい」などを心の声として発するだけで情報量として十分となる。しかし、そのような所謂「べた惚れ」という状態でない場合、恋愛作品においてはキャラの微細な心情の変化を上手く描写できるかが、映像化のポイントとなるであろう。

 

そこで最初の話に戻るが、ミュージカルという形式があまりに相性が良かったのである。簡単に思いつくだけでも、ミュージカル化したパートにおいては、

 

歌詞、歌のメロディ、振る舞い、ダンス、ミュージカルの舞台、参加メンバー

 

といった要素がある。特に音という要素が加わることで、漫画に比べてそもそもの情報量が多くなるほか、ミュージカルの歌詞へ心情や状況を載せると、不自然にならないようにモノローグや解説が再現できることが、ミュージカルと漫画(特に恋愛漫画)との相性の良さを感じることができた。

 

また、現実に舞台でミュージカルを見ても最近はかなり舞台演出が優れているとも聞くが、映画だからこそミュージカルの舞台がライブ会場であったり、ビルの屋上であったりと変幻自在で、なおかつ50人規模のダンスの表現ができるといった点も、視聴しながら感じることができた。

 

印象的なミュージカルのシーンは枚挙にいとまはないが、

・ヒロインが悩んでる時のミュージカルで歌詞が「星よわたしはどうしたらいい」とあり、これだけで、実際に悩んでいるが、自分自身に問題解決力がないことを表現できていて、キャラが自信で問題解決できないことを表す歌詞として、これほど優れているものはないと感動した。ヲタクに恋は難しいというのを、=恋愛についての自己解決力がないともっと見る側に明瞭に伝えられたら、より評価が高くなったのではないかとは思い、惜しいところである。

・声優ライブ会場その1で50人で息のあったダンスをするが、50人でお互いに動きが連携する必要のあるダンスをきれいに披露するというのは、相当に手間がかかることである。1人が1つのダンスを身に着けるだけで勿論難しいのに、それを50人。それも50人であることに意味があるように演出出来ていて、ミュージカルシーンへの力の入れ方が感じられた

・ミュージカルという文化が浸透していないのと、佐藤二郎の存在のためにどうしてもギャグの印象が強くなってしまう。だが、タイミングよくいい意味で極端なギャグが入り、コメディとしての完成度を高めるとともに、メリハリが感じられるものになっていた。

・ミュージカル作曲、編曲が鷺巣詩郎であることを、良くも悪くもちゃんと利用できている

 

と、非常に質のいいものであったと感じられた。ただ改善点も感じられるものであり、特に、主人公とヒロインのダンスシーンはもっと多い方がよかったと思われるのでが、おそらくこれは、ダンス1つを身に着けるのに時間がかかることから生まれたことと推察される。

ミュージカルにおけるダンスは情報量が非常に多いのだが、ダンスを身に着ける練習量も多いので、簡単にできる裏技なわけではない。本編の演技練習と合わせてダンスの練習もすることは実質不可能で、より覚悟を持ってミュージカル映画を作らないと無理なのではないかと思えた。だが、実写版のヲタ恋の評判が悪いようなので、残念ながら当分その日は来ないだろう。

 

また、終盤に男女1名ずつの出番が増えるのだが、ミュージカルパートで既存のヒロインたちの心情描写をするのか、新規キャラの描写をするのか中途半端になっているところは感じられ、質は十分高かったがまだまだ改善の余地は多くあるものだったといえるだろう。

 

以上がミュージカル部分についての感想だが、ミュージカルを除いても細かくよくできている作品である。

 

例えば、会社に同僚がいないとき、すぐに喫煙室に駆け込んでいるかどうかを確認したのを見て、ここまで丁寧な描写が自然にできている作品はなかなかないと唸ってしまった。原作はどうか知らないが、即座に喫煙室に走って確認しにいくという丁寧な描写ができている作品をわたしは他に知らない

 

その他にも丁寧ポイントがいくつもあるので、複数人数で見て丁寧ポイントを探すとより楽しく見れる映画である。

・3枚あるサークルチケットのうち恋人同士で2枚使って、残り1枚を買い子にわたしている

・いろんな作品をまぜたオタクトークをしている中で、初代ガンダムネタだけ通じなかった

タペストリーの高さがちゃんと全部あっている

・ライブで出てきた声優のキャラのシャツをちゃんと着ている

・居酒屋にコスプレ集団がいて、これコスプレマナー違反だろと思ったらすぐに、「ここはコスプレOkなところなんだよ」とフォローが入って、なるほど、と思った。

 

ただ、その割に、会社の仕事を居酒屋でみんなでしているのなんて本当にあるのか?と思えたりはしたので、丁寧に作っているところと雑なところのギャップが大きいとは思えた。

 

以上が実写版ヲタクに恋は難しいを見て名作だと思えた理由である。ミュージカルの面白さを理解できたのが個人的には得難い経験であったので、ミュージカルの意義をこれまで想像できなかったという人ほど、見るべき名作だろう